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ダークグレーのGT-Rは駐車場手前で警備員に止められた。
静かに開く窓から覗くのは濡れた黒髪に琥珀の瞳。
「あっ、ご苦労様って、え? ど、どう――」
「悪いんだけど、呼んで貰える?」
ヒロキが窓から指さすのは警備室にある内線電話。
「あっ、はい、すぐにっ」
慌てるような警備員の返事を聞いて車はゆっくりと地下に潜っていった。
車を止めてエンジンを切るがターボタイマーのせいで、駐車場に低いエンジン音が響く。
ヒロキはハンドルにもたれ、明かりの漏れる一点を見つめた。
小さな電子音と共に開くエレベーター。
そこから姿を現したのはパンツスーツにパンプスを履いた彼女。
彼女は不機嫌な顔のままヒロキの車に近づき、ドアのそばで立ち止まった。
「どういう……っ、どうしたの!?」
近づいてやっと気付いたのか、車内でずぶぬれの彼に気付き三上は驚きの声を上げた。
ヒロキはその声に口の端を上げながらドアを開けた。
いや、彼は笑ってるつもりなのだがその顔に表情はない。
「……雨に降られちゃってさ」
こんな言葉で取り繕えるはずもない。
けれど三上は言いたいことをすべて飲み込んで携帯を手にした。
「松井君? 今直ぐタオルを持って駐車場に。それから――」
テキパキと指示を出す三上を見ながら、ヒロキは煙草すら持っていないことに今更ながら気が付いた。
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