陸の養子話

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そもそも、陸の導入が決まったのは、牛のヒカリの友達としてである。 他人様の飼い犬、豆柴のヌーボーとうまく行ったから、犬は牛の友達になれると確信して、私が嫁に稟議をあげ、決裁にこぎつけたのである。 陸の受け入れを心待ちにしていたところを、譲渡会でとち狂って、酪を割り込ませたのは私である。 若干の責任は私にある。 嫁は牛を嫌ってはいないが、愛してもいない。娘の乳母を勤めてくれた牛に、なんて恩知らずなと思うが、牛を愛玩動物として飼うと言うのが、そもそも無理があり、しかし、畑正憲(ムツゴロウ)は、ツキノワグマを飼ってると抗弁しても、ぢゃあ、畑正憲なみに印税稼いでみろと突っ込まれる。 嫁は、牛にブラシをかけたことも、牧草を運んだこともないのである。 牛のケアは、すべて私である。 牛が嫁になつくはずがない。 動物は、餌の現物を運んでくれる者になつく。 牛は、無愛想だと嫁は言うが、自分が牛に無愛想だから、そうなるのである。 牛は、愛想がよい。 その牛のヒカリは、豆柴のヌーボーが訪ねてくれるし、話に聞くと、水牛のマシューと水遊びまでするらしいから、もうヒカリの友達は十分ではないかと言い出した。 陸君、ピンチである。 もちろん、責任持って里親探しをするとまでは、嫁は同意しているから、陸君が再度愛護センターに送られる危険はない。 しかし、陸君と私ら夫婦が写真に収まった年賀状が届いてこそ、動物愛護運動などという、腹の足しにならんことに身を投じているボランティアも、報われるというものだ。
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