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もちろん負けた。
サイズが違いすぎる上に、宙を気にしているとどうも思い切り走っている気がしない。帰ってすぐ宙を洗面所にやり、言い訳のように考えながら子供部屋のドアを開ける。
ソファーに、見慣れない人物が座っていた。
病院から抜け出してでもきたのかと思う。向こうの窓からの逆光でもわかるほど、肌が病的に白い。
サイズが大きいのか、第一ボタンのあいたシャツの襟元からは鎖骨の下までのぞいていて、むしろ服に着られているような不釣り合いさだ。
色の抜けたような白い髪は伸ばしっぱなしらしく肩まであり、顔の半分を隠している。その横顔は若い。左側だけ見えている顔は、わずかに目元と唇に色味が見え、茫洋としている目に意志の色はなさそうだ。
細身で小顔。美人の類に入る造作だろう。ただただ前を向いて、やたら姿勢が良い。
そこまで観察して、彼女は相手を青年と判断した。中身を見たわけでもない、ただのカンだ。但し、人間かどうかは確かでないけれど。
軽快な足音を聞いてドアを閉める。手を洗って戻ってきた宙へ、先に声をかけた。
「宙、今日はあの死神居るか?」
「かっか?」
傾げた頭をふるふる振られる。
「どうしたの?」
「いや? 今日も見ねぇなと思って」
ふぅんと言いながら、宙がドアを開ける。内心ひやりとするが、部屋に人影は無かった。
「いないよ?」
つまらなそうに宙が見下ろす。
「……そうだな」
息を吐いて肩の力を抜いた。
(今度こそユウレイの類かァ?)
だとしたら、間違いなくあの『閣下』のせいだろうとは思う。
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