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 返事を出来ないでいると、その代わりに機械的な音が鳴り響いた。  真田さんは取り出した携帯を見て眉をひそめると、 「ごめん、石原部長。ちょっと出るね」 と言って、携帯を耳に当てた。 「はい。お疲れさまです。……え? あ、その件は……」  電話の邪魔にならないように、真田さんから少し距離を取った。  すぐ近くに公園があって、その入り口に背を向けるように立つ。  ……またかかってきてるかもしれない。  真田さんの声を遠くに聞きながら、そっと携帯を出した。  初期状態のままの待ち受け画面には着信の表示はなくて、安堵のため息が出る。  でも、きっとこのままでは終わらない。  またかかってくる。  もしかしたら、目の前にだって現れるかもしれない。  だって、あんなに--……。  敵意が滲み出ていた声がまた蘇ってきて、寒くなんかないのに寒気が襲った。  バッグに携帯を仕舞おうとした時、砂利を踏む微かな音がした。
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