22/34
前へ
/34ページ
次へ
「……声を出すな」  振り返ろうとした私を、その声が制止させた。  驚きでわずかに動いてしまって、薄いジャケット越しの背中に何かが当たる。  それは、尖ったもので。    まさか--、……包丁?  そう認識したと同時に、血の気が失せていく。 「あの男を帰らせろ」  微動だに出来ない私を知ってか知らずか、男は要求を続ける。  妙に落ち着いた声が、恐怖を色濃くさせる。  くぐもったように聞こえるその声は、電話の男と同じ声だった。    そして、その男は、私の耳元に声を落とす。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加