174人が本棚に入れています
本棚に追加
「……声を出すな」
振り返ろうとした私を、その声が制止させた。
驚きでわずかに動いてしまって、薄いジャケット越しの背中に何かが当たる。
それは、尖ったもので。
まさか--、……包丁?
そう認識したと同時に、血の気が失せていく。
「あの男を帰らせろ」
微動だに出来ない私を知ってか知らずか、男は要求を続ける。
妙に落ち着いた声が、恐怖を色濃くさせる。
くぐもったように聞こえるその声は、電話の男と同じ声だった。
そして、その男は、私の耳元に声を落とす。
最初のコメントを投稿しよう!