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「理沙は、本当にどうしようもない子だね」
月明かりを背に受けて、見覚えのある顔は薄い笑みを浮かべていた。
その顔に、息を飲んだ。
「どうして僕をそんなに困らせるの? あの日だって、嘘なんかついて」
男がしゃがんだせいで、私の視界から月が隠れる。
私の顔を覆い隠すように、大きな手が現れた。
その手は、輪郭を確認するようにゆっくりとなぞる。
その緩慢な動きが、恐怖を増長させる。
声なんて、もう出なかった。
「本当は痛いことなんてしたくないんだけど、理沙が悪いんだからね」
男は私に覆い被さると、首もとに顔を埋める。
ブランコの板に残っていた右足を、男の腕がぐっと抱え込んだ。
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