34/34
前へ
/34ページ
次へ
  「水野さん!」  視界いっぱいに現れた真田さんの顔が、月を隠した。  焦ったような顔は、私の顔の横に添えられて、すぐ見えなくなった。  また、月が見えた。 「大丈夫。もう大丈夫だから」  私を抱き締めていた真田さんが、私の体を起こしてくれる。  ふわりと肩に上着をかけてくれる。 「一人にしてごめん……。本当に、ごめん」    真田さんの声が、遠くに聞こえる。  好きって、どうして。  どうして、お父さんが私に言うんだろう。  どうして、あんな顔で言うんだろう。  どうして。どうして。どうして。 「水野さん? 水野さんっ!」  その声を最後に、私の意識は途絶えた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加