上司と部下

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 少しうねった髪を手ぐしで纏め、耳朶の後ろ辺りでバレッタでとめる。ついでに軽く前髪を流して……よし、出来た。 「行ってきます」 「はーい、行ってらっしゃい」  上下を真っ黒いスーツで身を包んだ私、蔓下麻香―つるもとあさか―は、今年でもう、三十歳になる。  彼氏は居ない。ついでに言えば、私の年齢が彼氏居ない歴とでもいおうか。  ……別に、彼氏が居ないからと言って不便なことは無かった…と思う。誕生日なんて、私が活発な性格ではないせいか未だに親が祝ってくれる。  食費も生活費もタダな実家暮らしは、独り身の私にとって一番楽で、なにより落ち着ける場所でもあった。  そんな考えのせいか高校からの友達に 《そうやって自分から動かないから、彼氏どころか恋もできないのよ》  …なんて、怒られてしまった。
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