24 計略-2

10/36
前へ
/36ページ
次へ
息を整えながら、 内心の動揺を悟られないように、 「お待たせして、すみません」 私は、彼の待つ応接セットの所まで、ゆっくりと歩みより、どうにか笑顔を浮かべることに成功した。 一方、彼は、 きっちり着込んでいた背広の上着を脱ぎ、自分が座るソファの背もたれにかけ、 ネクタイも外して、すっかり、くつろぎモードに突入していた。 なんと、その手には、ワイングラスまで持っている。 グラスの中には、赤ワイン。 「この銘柄は、なかなかいけるんだ。君もどう?」 ――と満面の笑顔で言われても。 「……すみません。この後、会社に戻らないといけないので」 「ああ、そうだったね。じゃあ、何か飲み物を、持ってこさせよう。何がいいかな?」 「お気づかいなく」 ――それよりも、早く、本題に入ってください。 私は、とっとと、仕事に戻りたいんです。 ヒクヒクと、 早くも、顔に張り付けた、笑顔の仮面がひきつってしまう。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

648人が本棚に入れています
本棚に追加