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息を整えながら、
内心の動揺を悟られないように、
「お待たせして、すみません」
私は、彼の待つ応接セットの所まで、ゆっくりと歩みより、どうにか笑顔を浮かべることに成功した。
一方、彼は、
きっちり着込んでいた背広の上着を脱ぎ、自分が座るソファの背もたれにかけ、
ネクタイも外して、すっかり、くつろぎモードに突入していた。
なんと、その手には、ワイングラスまで持っている。
グラスの中には、赤ワイン。
「この銘柄は、なかなかいけるんだ。君もどう?」
――と満面の笑顔で言われても。
「……すみません。この後、会社に戻らないといけないので」
「ああ、そうだったね。じゃあ、何か飲み物を、持ってこさせよう。何がいいかな?」
「お気づかいなく」
――それよりも、早く、本題に入ってください。
私は、とっとと、仕事に戻りたいんです。
ヒクヒクと、
早くも、顔に張り付けた、笑顔の仮面がひきつってしまう。
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