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それは、
今まで、かろうじてかぶっていた彼の『年上の紳士』という仮面に、ぺりっと亀裂が入った、
そんな、瞬間。
「逃げるなんて、そんなつもりはありません。本当に、仕事のスケジュールの都合なんです。すぐに戻ると同僚にも言ってきてありますし」
「その仕事よりも、大事だと思ったから、ここまで初対面の私に付いてきたんじゃないのか、君は?」
「そ、それは……」
痛い所をチクリとつつかれ、続く言葉がうまく出てこない。
「東悟のことなど関係ない、どうなっても知ったことではないと思うのなら、何も聞かずにこのまま帰ればいい。止めはしないから」
低く、地を這うような声に、
あからさまに向けられた挑発の言葉に、内心に走ったのは、怯えだった。
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