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でも、その内心の怯えを凌駕したのは、弱腰になって尻尾を丸めて逃げ出そうとした自分に対する、憤り。
――こうなったら、とことん、聞いてやろうじゃない。
そして、探ってやる。
この人に腹の底に何があるのか、を。
この人が、敵か、味方か。
それを、見極めてやる。
まんまと挑発に乗っている、
そういう自覚はあるけど、
「わかりました。お話しを伺います」
私は、浮かしかけていた腰を元の位置に落ち着け、背筋を伸ばして、まっすぐ彼の目を見据えた。
返される視線は、愉悦という名の怪しい光をはらんでいる。
楽しげに、ニヤリと上がる口角。
「君はやはり、私が思った通りの女性だ」
彼は、手にしたワイングラスを口に運ぶと、
一口、味わうように飲み下し、先刻と同じ質問を投げてきた。
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