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亡くなった人は、さぞ、無念だったことだろう。
でも、残された者は、もっと、無念でやり場のない悲しみに暮れる日々が続いていく。
交通事故で命を落とした、自分の父親と重なって、胸の奥が軋むように痛んだ。
「更に不幸なことに、彼の車には、妻が同乗していてね。かろうじて命はとりとめたが、頭を強打したため、植物状態に陥り、今も、そのままだ」
――今も、植物状態のまま……。
よどみなく語られる、まるで不幸の見本市のような出来事に、暗たんたる気持ちで、小さく息を吐く。
そんな私の様子を、楽しげに見やり、
彼は、とっておきの話をするように、声のトーンを落とした。
「そこで残されたのが、当時、大学卒業を目前に控えた、一人息子と、彼の両肩にのしかかる、途方もなく膨れ上がった借金。プラス、生命維持に莫大な金がかかる、植物状態の母親だったわけだ」
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