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「岩村さん。あの人じゃない。」
物思いに耽っていた岩村は、玲子の声で現実に引き戻された。
玲子の視線の先に、ベビーカーを押す若い女の姿。
小柄で艶やかな黒髪につぶらな瞳。
派手ではないが、清楚で清潔感の溢れている。
美人というより可愛いといった方が適切な表現だろう。
ロングスカートにスニーカー、ダウンジャケットを羽織り、白いマフラーを巻いている。
頭には同じく白のニット帽。
白が彼女に良く似合っている。
その愛らしさは、到底、呪いや恨みなどとは無縁だ。
表情も暗くはなく、笑顔でベビーカーを覗き込む姿は、若い母親の幸せな空気に包まれていた。
「・・・双子なのね。」
玲子はベビーカーに目をやった。
ベビーカーは横型のツインで、そこには双子が同じ笑顔を向けて母親を見上げている。
「一卵性双生児のようですね。」
まっすぐに視線を向けている玲子とは対照的に、玲子の後ろから盗み見るように視線を送る岩村が答えた。
「この間は気づきませんでした。」
「まるで天使のようね。」
無邪気な笑顔を見せる双子に玲子の表情もほころんだ。
ベビーカーと玲子達との距離が縮まってきた。
子供というものは常に好奇心が旺盛だ。
双子は、ベンチに座っている見慣れぬ者に気づいたらしい。
可愛らしい嬌声をあげて玲子に笑顔を振りまく。
「こう見えてもアタシは子供には人気があるのよ。」
玲子は岩村を振り返りウインクをした。
その仕草に岩村は思わず心を奪われ固まった。子供だけではない、充分、大人も虜ですよ・・と思わず言葉が出そうになったが呑み込んだ。
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