第二章

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「岩村さん。あの人じゃない。」 物思いに耽っていた岩村は、玲子の声で現実に引き戻された。 玲子の視線の先に、ベビーカーを押す若い女の姿。 小柄で艶やかな黒髪につぶらな瞳。 派手ではないが、清楚で清潔感の溢れている。 美人というより可愛いといった方が適切な表現だろう。 ロングスカートにスニーカー、ダウンジャケットを羽織り、白いマフラーを巻いている。 頭には同じく白のニット帽。 白が彼女に良く似合っている。 その愛らしさは、到底、呪いや恨みなどとは無縁だ。 表情も暗くはなく、笑顔でベビーカーを覗き込む姿は、若い母親の幸せな空気に包まれていた。 「・・・双子なのね。」 玲子はベビーカーに目をやった。 ベビーカーは横型のツインで、そこには双子が同じ笑顔を向けて母親を見上げている。 「一卵性双生児のようですね。」 まっすぐに視線を向けている玲子とは対照的に、玲子の後ろから盗み見るように視線を送る岩村が答えた。 「この間は気づきませんでした。」 「まるで天使のようね。」 無邪気な笑顔を見せる双子に玲子の表情もほころんだ。 ベビーカーと玲子達との距離が縮まってきた。 子供というものは常に好奇心が旺盛だ。 双子は、ベンチに座っている見慣れぬ者に気づいたらしい。 可愛らしい嬌声をあげて玲子に笑顔を振りまく。 「こう見えてもアタシは子供には人気があるのよ。」 玲子は岩村を振り返りウインクをした。 その仕草に岩村は思わず心を奪われ固まった。子供だけではない、充分、大人も虜ですよ・・と思わず言葉が出そうになったが呑み込んだ。
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