第二章

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玲子は満面の笑みで子供達に手を振った。 子供達は玲子の仕草に喜び、盛んに手足をバタつかせ声をあげる。 子供達の反応に母親はその視線を玲子の方に向ける。 玲子は自然な様子で母親に向かって会釈をした。 母親もつられて会釈をする。 次の瞬間。 玲子はベンチから腰を上げ、ツカツカと親子の方に歩き出した。 岩村が止める暇もなかった。 玲子はベビーカーを覗き込みながら、満面の笑顔で話しかける。 母親の方はとまどいながらも玲子の笑顔に魅きこまれるように話に応じている。 岩村は為す術なくその状況を眺めていた。 今更、話の輪に入るのも怪しすぎるし、とても玲子のように自然にふるまえるようにも思えない。 かといってジロジロとふたりを見るのも妙である。 なるだけ、ふたりを意識しないように鞄の中から手帳を開き、スケジュールの確認などを始めてみる。 もっとも、全ての聴覚はふたりに向いているわけだが、距離は少しあるので、耳をそばだててもふたりの会話は聴こえてこない。 焦れる時間が続いた。 おそらくわずか数分の時間なのだろうが、人間は欲しい情報が目の前にあるのにそれが手に入らないという状況には我慢強くできていないらしい。 岩村にはその時間が小一時間ほどにも思えた。 手帳に顔を伏せている岩村の耳に足音が聞こえた。 「行くわよ。」 顔上げると、玲子が戻ってきていた。 母親と話している満面の笑みは消え、いつもの仏頂面である。 岩村は視線を親子の方に向ける。 ベビーカーを押しながら母親は今来た道を戻っていくところだった。 「だいたいのところはわかったわ。」 玲子はその親子の背中を見ながら呟いた。
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