第三章

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「確かに彼女が脅迫状を送るような人間だとは思えないわね。」 玲子と岩村は両国の駅前のカフェに入っていた。 年明けの早い時間ということもあって、人はまばらであった。 玲子は、一杯立てのエスプレッソに加糖練乳を加えたベトナム珈琲を口にする。 一方の岩村はアメリカンをブラックで飲んでいた。 「そうなんです。」 岩村が頷いた。 「私も、あの人に脅迫状のような恐ろしいものを書くような人にはとても思えないんです。子供もいるし、とても幸せそうだし、それと・・。」 「それと?」 「吉良のご両親が、まずもって彼女、つまりさきほどの大石莉子さんがそんなことをするはずないと否定されまして。なによりも迷惑をかけたのは吉良であって、くれぐれも大石さんの幸せを壊すような真似はしないで欲しいと・・。」 「なるほどね。」 玲子は珈琲カップをスプーンでかき混ぜながら、ぼんやりと窓の外に目をやった。 「彼女が脅迫状を送っていないとすれば、あなたはどう考えるの?今も現実に脅迫状は届いているのよね。」 玲子は岩村に尋ねた。 岩村は、玲子の質問に少し言い澱んだ。 考えはあるのだが、憚れるように口ごもる。 「思ってることを言っていいのよ。馬鹿にしないから。」 玲子は珈琲を口運びながら言った。 その自然な様子に岩村は覚悟を決めたのか口を開いた。 「私は大石莉子さん本人が脅迫状を書いたのではなくて、もっと、何か・・そう、超常現象のようなものが働いているのではないかと。」 荒唐無稽な話である。 玲子は、岩村の言葉に大きな反応を見せず、珈琲カップを置いた。 「大石莉子の潜在意識に眠る吉良義人に対する怨念が、生霊となって脅迫状を書いてる・・そんなことかしら。」 「・・ば、馬鹿馬鹿しいでしょうか・・。」 「そうでもないわ。」 玲子は首を振った。 「古川さんがあなたにアタシを紹介したのは、そういう超常現象なんかに詳しいからでしょ。中津川家は陰陽師の一族だから。」 岩村はその言葉に明確な反応を示さず、ただ黙ってうつむいた。 「恋人に捨てられてた女が未練を断ち切れず、生霊となって恋人を呪い殺す話は江戸時代の怪談にあるわ。」
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