第四章

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寒い朝だった。 いつも通り大石莉子は双子の子供をベビーカーに乗せて散歩に出る。 東京に出てきてからの日課になった行動だ。 夫は、最初のうちこそ心配して一緒に付いてくるような素振りを見せていたが、そのうち寝床の中で軽く手を振るだけになっていた。 結婚して4年。 夫は都市銀行の銀行マンで、莉子より5歳年上のおとなしい真面目な男である。 莉子が夫の勤める北海道の支店の契約社員だった頃に知り合った。 夫は才気走ったところはなく実直で、いつも穏やかな笑みを湛えている。 それが結婚当初は物足りなくもあったが、次第にそんな夫のおおらかさが莉子にとってのやすらぎとなっていた。 夫は莉子が夫と知り合う前に大恋愛をしていて、その恋人を待ち続けていることを知っていた。 それでも気長に莉子と向き合い、いつしか莉子もその夫を愛するようになっていた。 「前の恋人」吉良義人との恋は莉子にとって「激烈」であり「青春」であり、そして「闘い」であった。 一方の夫との関係は人生の伴侶であり「やすらぎ」である。 どちらも莉子には大切なものではあったが、吉良とのことは既に過去のことであり、いずれ淡い記憶の一部になっていくものと信じていた。 それが。 夫の転勤で、吉良の住む東京に移り住み、偶然、駅前で吉良と再会したことで、すべては変わった。 いや。 続いていた。 そういうべきなのだろうか。 いつものようにいくつかの路地を曲がり、大通りに出る。 この時間帯は出勤時間の少し前であり、人通りはまだ少ない。 風がときおり強く吹き、莉子の髪を揺らす。 ベビーカーの中では二人の「ヨシト」が天使のような表情で眠っている。 莉子は足を止めた、 莉子の視線の先にはポストがあった。 莉子は素早く辺りを窺う。 そして、なるかぎり自然な様子でダウンジャケットのポケットから封筒を取り出し、ポストへ投函しようとした。 その瞬間。 封筒を持った莉子の右手首が何者かに掴まれた。 「もうそんなことする必要はないのよ。」
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