第1章

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当主である中津川礼央那は政財界に広い顔をもち、人柄も高潔で寛大であり、礼央那を慕う人間は著名人にも多い。 人を地位や名誉や財で差別せず、全ての人に対して平等にふるまう礼央那はオバラにとって尊敬という言葉ではとてもいい尽くせないほどの存在だ。 その礼央那の妻である中津川かおるも、夫と同じく気品溢れ、全ての人を優しく包み込むような菩薩のような女性である。 その完璧な夫婦から、なぜあのような傲慢で荒っぽい娘が生まれるのか、まことに不思議である。 そのルックスは両親の血を受け継ぎ、いや、それ以上の気品と美しさに満ちあふれているが、性格、人間性においてはまさに対極といっていいほどの乱暴さだ。優しさとか慈愛とか謙虚とか、そんなものは中津川玲子には皆無である。 生まれもっての「わがまま」。 それが中津川玲子なのである。 それもこれも、政府の非公式の外交顧問として世界中を夫婦で飛び回る礼央那、かおる夫妻が、玲子の教育を他人任せにしたからだと思っている。 そしてその教育の一端を執事であるオバラも担っており、その点の自省の気持ちも常にあるのだが。。 玲子はもはやオバラの手に負えるような娘ではなくなっていた。 むしろ、オバラにとって今や「天敵」ともいえる存在である。 玲子の無鉄砲な行動と無配慮な言動で何度もオバラは寿命の縮む思いをしている。 現在、当主である礼央那と妻のかおるは中東に仕事に出かけており、留守中の責任は全て執事であるオバラにある。オバラにとっては、できるだけ玲子におとなしくしてもらわないとその全責任を自分が負わなければならないのだ。 まったくもって。。 危険極まりない日々なのである。 玲子を訪ねてくる訪問客にオバラが神経を尖らすのもそのような背景があった。
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