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「少し前に私の同僚の男が自宅で死んでいるのを発見されました。吉良義人という男です。財務省の官僚で大変優秀な男でした。」
「死因は餓死だったわね。ずいぶん派手に報道されてた事件ね。」
エリート官僚が自宅で餓死というショッキングな事件は当然マスコミでも連日取り上げられていた。
まだその記憶は古いものではない。普段は世間の様子など全く気に留めない玲子も関心を持たずにはいられなかった猟奇的な事件だった。
「・・確か自殺だったという結論で片付いたのね。」
「そうです。」
岩村は頷いた。
「監禁などの事実もなく、事件性はないということで自殺と断定されました。」
「あなたはその結論に納得しなかったのね。」
玲子は少し身体を前に起こし、岩村の顔を覗き込む。
玲子の大きく開いた胸元の白い肌をなるだけ見ないようにして岩村は口を開いた。
「私は吉良が亡くなる直前、不思議なものを見たんです。」
「何を見たの?」
古川から経緯は聞いているものの改めて岩村本人の口から聞こうと玲子は質問した。
「吉良の昔の彼女です・・・いや・・正確には吉良の昔の彼女の生霊です。」
岩村に声は心なしか震えている。
恐怖の記憶がまだ生々しく岩村には残っているらしい。
「生霊とはどういうこと?」
「吉良は言っていました。昔、捨てた彼女に恨まれていると。そして、その彼女から毎日、脅迫めいた手紙を送りつけられていると。私もその手紙を見ました。口紅でウラギリモノとかコロスとか、それは恐ろしいものでした。」
「それで?」
玲子は岩村に促す。
「吉良は、その女が毎夜毎夜、枕元に現れると・・そう言っていました。その頃には吉良はだいぶ痩せ細っていたので幻覚でもみていたのだろうとそう思ったのですが・・。」
「あなたが見たということなのね。」
「はい。」
岩村は頷いた。その顔にははっきりと恐怖の色が浮かび上がる。
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