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「深夜の2時頃でした。吉良のマンションのベランダに黒い長い髪の女が立っていました。。その女はベランダから吉良の寝室に移動していきました。吉良のマンションは11階ですから、外から忍び込むなんて絶対無理です。私は玄関近くのリビングで寝付けずにいましたから、玄関から入ってくるなど不可能だったのです。」
ひゅっ。
玲子は口笛を吹いた。
その美しい瞳を細める。
「その件は、解決済みなんじゃない?」
玲子は岩村の表情を鋭く観察しながら言った。
「古川さんから聞いたとことによると、その生霊ってやつは、実は吉良義人のひとり二役だった。あなたに幽霊を信じさせるために、女モノの鬘をかぶり、服を着替え、寝室にはあたかも自分が寝ているように毛布か何かを丸めて人の形をつくり、自分は幽霊となって寝室からベランダに現れる。こんなトリックだったと。」
岩村は玲子の言葉におとなしくうなずいた。
「確かにそういう話でした。私があまりに騒ぎ立てたもので、警察の方が秘密裏に調査を継続してくれたのです。その結果、私が見たものは吉良が扮した幽霊だったと結論づけられました。」
「でも、貴方はそれに納得していないと?」
「いったんは納得はしたのです。」
岩村は言葉を一度きり、視線を玲子に向けた。
「・・・しかし、続いていたのです。。」
「続いていた?」
「脅迫状です。」
「脅迫状?」
「そうです。吉良に宛てられた脅迫状がいまなお送り続けられいるのです。」
岩村は唇が乾くのであろう。何度も紅茶で唇を湿らす。
「吉良の葬式が終わって、吉良の家族が私にその脅迫状を持ってきたのです。吉良の死後も毎日欠かさず脅迫状は送り続けられているのです。内容もその文字も・・私が吉良に見せてもらったものと同じものです。」
「それじゃ、すぐに警察に届ければいいじゃない。」
玲子は至極あたりまえの質問を投げかけた。
その質問に岩村は激しくうなずく。
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