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「もちろん、届けました。吉良の幽霊騒動を調査してくれた警察の方にすぐに届けたのです。しかし・・。」
「しかし?」
「なぜかとりあってくれないのです。」
「とりあってくれない?」
「きっと質の悪いいたずらだろうと。笑って真面目にとりあってくれないのです。」
「ふーん。。」
玲子は少し首を捻った。
「警察も不親切ね。。」
「吉良の件は、省庁のみならず政府の中でもとかく噂が尽きない一件です。吉良が何か国家の機密を知っていたとか、なんらかの不正の事実を掴んでいたとか。そういうきな臭い噂が絶えない中、これ以上騒ぎを大きくしたくないとの判断があるのでしょう。もう、この件は終わりにしたいと。。」
「それでもあなたは気になるということなのね。」
「気になるというか、眠れないのです。」
岩村は苦悩に満ちた顔になった。
「最後にあった吉良はこの世のものとは思えぬ姿でした。骨と皮だけで目だけがギラギラして、髪の毛は抜け落ち・・どうしたら人間があんなに壊れてしまうのか。。そこまで吉良を追いつめたものはなんだったのか・・今も送られてくるあの脅迫状が悪戯だとどうしても思えないのです。。」
岩村はため息をつき、親指の爪を噛んだ。
行儀の良い行動ではないが、おそらく不安になったときのこの男の癖なのだろう。
「そんなこと考えていると神経が逆立って一睡もできないのです。私も吉良のようになってしまいそうで・・。」
「それで古川さんに相談したということね。」
「はい・・。」
岩村は頷いた。
「警察が動いてくれない以上、相談できるのは中津川玲子さんだけだと古川さんが仰って。。」
「買いかぶりだと思うけど。」
玲子は苦笑した。
「でも、引き受けるわ。おもしろそうだから。」
玲子はポンと手を打った。
至って軽い反応である。
玲子にとって怨霊とか呪いとかは恐怖ではない。
そもそも中津川家はそれで栄えてきた一族である。
岩村が感じる恐怖は玲子にとってはDNAに刻み込まれた「日常」といってもいい。
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