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何年前のことだろう―――
ちらちらと舞い落ちる雪を見て、私は思わず肩に力を入れ身震いした。
「裕作、雪だよ。あったかくしないと風邪をひいちまうよ」
「待ってよ~ユリちゃん、僕のマフラー知らない?ユリちゃんが編んでくれたマフラー」
「あ~……車に乗ってたんじゃなかったかな?とにかく行くよ」
私はこの度古希を迎え、貫禄のあるいいバアさんになっちまった、裕理子(ゆりこ)。
そしてちょっと頼りないこのジイさんが私の亭主の裕作(ゆうさく)。
裕作と私は近所に住んでた同じ年の幼馴染み同士だった。
「あ、本当だ。車に乗ってた」
同じ年とは思えないくらいの可愛いジイさんになった裕作だが、
「ユリちゃんの手編みじゃないと、僕はダメなんだよね。はぁ~……あったかぁ~い」
無邪気に子どものようにはしゃぎ、くたびれたマフラーを首に巻く。
手編みだ手編みだと喜んでいるが、いったい何年前の代物なんだか……
すっかりふわりとした肌触りもなく、だらしなく伸びてしまって、本当に見すぼらしいったらないよ。
なのに毎年、『ユリちゃんの手編みのマフラー』だって冬になっては騒ぎ、ありがたがって首に巻く。
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