第1章

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  「乗らないよ。今日から徒歩で帰宅するの」 「と……ほ……!?」 あらやだ信玄ちゃんお顔が真っ青よ。 「政宗……あんた、確か頭は抜群にいいはずよね? それならほら、その立派なお頭で考えてみなさい。徒歩で通勤なんてしたらどうなるかを」 「一歩前に進むたびに、何かしらのキャッチに捕まる。政宗公のストーカーが大歓喜する。命を狙われるっ……!」 私の代わりに、徒歩で通勤したときに発生するかもしれない事象を指折り数えてくれた信玄に苦笑いをみせ信長の横に腰を下ろす。 「別に命は狙われないし、マスクもサングラスもつけてるから大丈夫だよ」 「何が大丈夫なのよ。キャッチやストーカーには捕まらないとしても、それじゃ警察に捕まるわ」 そう呆れ半分に言い切った金髪美女の細い肩によりかかって、着信が数件入っているスマートフォンの画面を見つめた。これは店用の電話だし、今日はもう電源を切ってもいいだろう。 「たまにはさ、気分転換したいわけ。夜の華やかなネオンもいいけど、外にある雑な街灯の光も悪くないよ?」 ビル街に飾られた派手な光に交じって夜の暗闇を照らす小さな街灯も、たまには見ておかないとね。 なにもかもに「最高級」と付く夢のような生活を送っているからこそ、そういった現実世界のビジョンがたまらなく恋しくなったりするのだ。 「……まあ、好きにすればいいけど。夜の暗がりには人をおかしくする効果があるらしいから、なるべく人目の多いい明るい場所を歩きなさいよ」 「あと、必ずスマホを握りしめて歩くこと!」 私のお腹に手を回してきた武田のお嬢さんに、分かったよと優しく笑ってみせその頭を撫でた。この二人がいてくれるから、私はまた明日も頑張ろうと思えるんだろうな。なんて小さく笑い「よし」と呟いてその場から立ち上がる。 「それじゃあ、帰りついたらまた連絡するね」 と、なんだかんだ言いながら私を心配してくれている信長と何故か涙目になりながらこちらを見つめる信玄にわざとらしくウインクを一つ残して、お店を後にした。   向かうは眠り浅き夜の街だ。 
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