第1章

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  いまいち冴えない顔立ちに、長めに伸ばされた黒髪を携えたその男は私を真っ直ぐ見据えていた。 こんな大声で意味不明な求婚を受けたにも関わらず、街ゆく酔っぱらいだのアフター中のお嬢だのは一切こちらに目を向けようとはせず無関心を装っている。いや、待て今はそんなことどうでもいい。とにかくこのヤバそうな目をした男を何とかせねば。 「いいか凛。俺はお前を嫁にするとずっと前から決めていたんだ」 「だから、気は確かかって聞いてるんですよ。もしかして酔ってるんですかお兄さん?」 「ああ……酔っている。お前の美しさにな」 うわー……これは重傷だ。至って真顔でそう言い切った勘違い男を逆なでしないよう、マスクの下で極力自然に笑ってみせやんわりと掴まれていた腕を払いのけた。 仕事柄、どんなクサいセリフも笑顔で受け入れられるというスキルを持っていたからよかったものの普通の女の子なら一発叩かれてるぞこれ。 それにしても、どうしたものか。 ここは素知らぬ顔で黙秘を決め込んでスルーするか、大人しくお巡りさんを呼ぶかの二択だろう。出来る事なら前者の方でいきたいが、この人みるからにしつこそうだもんなー。 「おい、凛。何か俺に言うことはないのか」 「……あーっと、今時の魔王サマってのは植木屋で働いているんですね」 随分とクリーンな感じで。と言葉をつけたして、考えをまとめる時間を稼ぐために魔王サマの腰に巻き付けられていたエプロンに注目する。 そこには「植木屋 SHIGEZOU」と書かれているのだが……これはもうどこからツッコめばいいのだろう。魔王サマが植木屋ってとこ? 植木屋しげぞうってひらがなに直すととんでもない爆笑ワードになるってとこ?  
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