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「あら、ナギちゃん戻ってたの」
そう言って花屋「ツバキ」の中からガタイのいいお兄さんが出てきた。茶髪の短い髪に薄く塗られたファンデーション。そして私より綺麗なぷるっぷるの唇。これがこの花屋のオーナー兼従業員でもある、ツバキさんで通称……。
「うわーっ姫姉! 久しぶり!」
「あら、うっそ凛じゃない! 久しぶりねぇ」
ツバキさんこと姫姉と挨拶代わりの抱擁を交わし、その女より女らしい手入れされた手を握りしめる。
「姫姉ってば相変わらずの美しさだね」
「やだ、凛ってばお上手なんだから。褒めても何も出ないわよ」
「えーホントのこと言っただけなんだけどなー」
あははとマスクを下げて笑い、そのまま上着のポケットに冷たくなり始めた両手を収納した。
「おい、待て店長。俺の凛にあまり馴れ馴れしくするんじゃない」
「はあ? 何言ってんのナギちゃん。俺の……何だって?」
「だから俺の凛に、だ」
「え、ちょっとやだ、冗談言うのやめてよねー。凛はこの街一番の蝶なのよ? あんたみたいな普通を字にした男、相手にするわけないじゃない」
はあ……さすが姫姉、話が分かっていらっしゃる。魔王だか何だか知らないが私はこんな怪しげな男に引っ掛かるような女じゃないのだ。姫姉の言葉に大げさに頷き、腕を組んで魔王サマ……もとい、ナギちゃんの方を見つめる。
「店長が何と言おうと、俺と凛は結ばれる。そういう運命なんだ」
「ねえ、姫姉。このナギちゃんさっきからずっとこんな感じなんだけど、一体何者なの?」
「まったく。渚のことだからまた俺は魔王だーとかなんとか言ったんでしょ? ホントしょうがない子なんだから……ごめんなさいね凛。このナギちゃんね、実は私の姉の子で今この辺にある大学に通ってるんだけど、年末はお店が忙しくなるから臨時で雇ったの」
「そうだったんだ」
「そうなの。それでね、どうやら神様が頭のネジを一本締め忘れちゃったみたいで……」
なるほど。嫌という程しっくりくる理由だ。
そりゃ突然「俺は魔王だ! 結婚してくれ!」とか言っちゃうような子だもんね。この辺の大学に通ってるってことは、年は近いはずだけど……まさか私と同じ大学って訳でもないだろうな。うん。
頭を指してネジの緩んでるというジェスチャーをしたツバキ店長に、魔王こと渚ちゃんが素早く反論の意を唱える。
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