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「て、店長何言ってんだ! 俺は別におかしくなんかない。ただこの世界の魔界を支配しているだけだ」
「だからそれがおかしいって言ってんのよ」
「まあ、常人に理解を求めた俺が悪かったのかもしれないが……」
「なんかその言い回し腹立つわね」
そこで始まった男同士の争いとも呼べる罵り合いに、苦笑いをこぼして軒先にあったピンクのバラを一本手に取った。見た目と同じ柔らかなパステル調の香りに、思わず目元が緩んでしまう。んー……やっぱりこのバラの匂いって好きだなあ。
「ったく、ああいえばこういうんだから。ちょっと聞いてるのナギちゃん?」
「……綺麗だ」
「え?」
「バラを持った私も、悪くないってことかな渚くん」
口喧嘩をしていた店長を無視して私に熱い視線を送る魔界の王様に、店でしか見せないような営業スマイルを浮かべ手に持っていた花を差し出した。
「私の店に来て、もしこの私を指名できるようになったら……その時は結婚を考えてあげてもいいですよ魔王サマ」
それは冗談半分からかい半分の言葉遊びで。
この魔王サマに何かを期待して言ったわけではなく、夜を優雅に舞う蝶の私が大金を持った獲物の気を引くために使かう甘い毒牙を、垣間見せてあげただけに過ぎない。こんな私をあなたはモノに出来ると思ってるの?ってね。
……ただ、顔を真っ赤にしながら差し出されたバラの花を受け取った渚くんが不覚にも可愛いと思えてしまった辺り、私のメンタルはもう活動限界を迎えているようだった。
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