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「え?」
「あんた、なに、その恰好……」
「何って帰り支度してるんだけど?」
「はあ?」
普段の信長サマからでは想像し得ないドスのきいた声に驚き振り返ると、うつ伏せになっていた信玄までもがチョコを口に咥えたままポカンとこちらを凝視している。
「な、なによ」
「いや、いやいやそれはない。それはない」
「政宗さま……私もさすがにそう思いますよ」
「何がないの?」
頭に疑問符を浮かべながら、椅子に足を置いてスニーカーの紐を結ぶ。最後に長い黒髪を後ろで一つに縛れば、ご帰宅モード政宗の完成だ。
「まさかとは思うけど質の悪いストーカーから逃げる為に変装してる、とか?」
「違うけど」
「じゃあどうして? 政宗公、いつもはもっと派手じゃん! パンツなんて絶対に穿かないじゃん! なのに、なのに、なんですかその滲み出る庶民オーラ……!」
ベビーフェイスと名高い信玄が、眉に皺を作りながらおもむろに立ち上がってそう抗議してきた。顔に似合わず紫のランジェリーにガーターベルトまで装着している。まあ色気がなくないこともないか……似合ってはいないような。
「あのね信玄、階級的にはみんなだいたい庶民じゃんか」
「一晩で数百万稼ぐ美姫がよくもまあぬけぬけとー!」
むきーっとサルのような声をあげて地団駄を踏む甲斐の大虎サマに、憐みの目を向けて短く息をついた。信玄の源氏名は今でも秀吉にしとけばよかったのにと思う。
「ほら、落ち着いて。それじゃあ武田の名が泣くよ」
「あんたこそ伊達者と名高い政宗公の名が泣いてるわよ。それに、そんなだっさい格好して帰りのリムジンに乗る気じゃないわよね?」
手にしていた煙草を潰して、ソファーに座りなおした信長が私を睨んだ。
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