52人が本棚に入れています
本棚に追加
私たちは互いを求め合い、貪り合った。
決して悔いることのないよう、どこまでも、余すところなく――ただ一度限りの契りを。
私はフィーネよりずっと早く死ぬ。
けど、愛し合う全ての者が同時に生まれ同時に死ぬわけじゃない。
それぞれがそれぞれの時間を、駆け抜けて、過ぎていく。
遙かなる時の流れの中で、限りある命と命が重なっただけで、奇跡なのだから。
性を司る夢魔が、新たな生命が宿ったことを告げた。
◇
「汚らわしい……!」
「少女と思って油断した!」
エルフたちが私を捕らえ、口ぐちに罵る。
「お願い、乱暴はやめて」
「しかし巫女!」
そのとき、
「しくじったか」
灰色のオウムが降り立った。
私はオウムを睨みつける。
「任務は違えてない、世界樹の巫女は死んだ」
「ほぉ?」
「彼女は巫女の資格を失った。
森の加護は得られない。
だからもう暗殺者を送り込む必要はない」
オウムはねっとりとした視線でフィーネをねめつけ、なるほど、とうなずいた。
「いいだろう。
では最後の仕事はわかっているな?」
「わかってる。
でもここで醜い姿を晒したくない。
あなたに頼める?」
「よかろう」
オウムの黒い眼に凶悪な光が宿った。
私はフィーネにほほ笑みかける。
「何があっても悲しみに囚われないで。
あなたはもう一人じゃないから」
「待っ……」
フィーネが私に駆け寄るより先に、オウムが呪文を紡いだ。
「【強呪】」
胸の内側で心臓が爆ぜる。
体がぐらりと傾ぐ。
自らの魔法で命を断ったオウムもまた地に落ちる。
エルフたちが驚きに目を見開く。
倒れ伏す前にフィーネを見た。
フィーネ。
そんな顔しないで。
私は本当に幸せだったから。
生まれてくる子どもの顔を見れないのが少しだけ残念だけど。
あなたと過ごした日々は、きらきらと輝くような時間だった。
ありがとう。
さようなら。
*
やがて森は衰え、エルフ族は徐々に数を減らしていく。
十数年後、世界樹の森から一人のハーフエルフが旅立ち、世界の運命を決定する少女と出会うことになるが――それはまた別のお話。
少女は木漏れ日の下で/Fin
最初のコメントを投稿しよう!