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俺の問いに対して、彼女は拍子抜けした様子で答えた。「何より金に満たされている」と。
金?知識?名誉?異性からの人気?―――そんなもの、俺にとって何の慰みにもならない。
人間が値段を付けた、カネで手に入れられるようなモノに興味は無い。
「カネ……か。そんなもの、満たされたって人間が満たされるものじゃない」
「……私達は生きる世界が違うのよ。だから、求めるものも違う」
俺の言い方が気に食わなかったのか、少し間を置いた彼女は冷ややかな声色でそう言い捨てる。
生きる世界が違う?
何をそんな大袈裟な言い方をする。
毎回そうだ……
金の話になると俺を拒絶する。突き離す。
ブランド物が欲しい?金が全てだ?
嘘をつくな。
物欲だけで生きてる人間が、そんな怯えた目をしているはずが無い。
「何が欲しい?そうやって目を逸らさずにいるためには、何を手に入れたら満たされる?」
きっとそこに答えがある。
暗黒の地に身を沈めていた俺が、こんなにも彼女に惹かれた理由がきっとそこにあるはずだ。
追い詰められた様に壁に背を寄せ、口を引き結んで俺を睨み付ける彼女。
怒りと恐怖と俺が与える屈辱感と――彼女の瞳に生気を帯びた灼熱の色が混じり込む。
目を逸らすな。
言え。
答えを俺に……
君の背負う闇を曝け出してくれ―――
「……自由よ。私が欲しいモノは、自ら作り上げた呪縛から解放される、自由。そのためにお金が必要なのよ…」
彼女は口を歪めながら、喉の奥から絞り出すようにそう言った。
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