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「ありがとうございました!」
商品を詰め終わった彼女は、満面の笑みを浮かべて俺に袋を差し出した。
一番上で少し顔を覗かせる食パンを見つめ、口を噤む。
何をやってるんだ俺は…
これじゃ、ここに来た意味が無い。
彼女に近づきたかった……でも、このまま帰ったら近づくばかりか嫌われて終わりじゃ無いかっ。
「あのぉ…先生?」
黙り込んだままの俺を見て、彼女が首を傾げる。
「今日、安藤さん誕生日なの?」
息を吸い込んで、真っ直ぐ彼女を見つめる。
彼女は少しだけ肩を引き、目を大きく見開いた。
「えっ?はい、そうですけど…」
何故知っているのか?と聞かれる前に、「さっき、もう一人の店員さんとそんな会話してたよね」と、さり気無く先手を打った。
ビールが嗜好品の一つだと言う情報は、葵ちゃんと彼女がステーションで話していたのを偶然耳にして知っている。
「ビール、好き?」
「は、はい?…えっと、好きですけど…」
予想通りの反応。
「じゃあ、これあげる」
俺はカウンターにビールを二本置いて、
「ささやかなプレゼント」
さり気なく笑みを浮かべる。
感じたことの無い精神の高揚。
置かれたビールを見つめ、あからさまに戸惑う彼女が愛しく思える。
俺は自覚していた以上に、かなりイカれてしまっているようだ。
「色気がなくて悪いけど。誕生日おめでとう」
目尻を下げて、俺が見せられる精一杯の笑顔を彼女に贈った。
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