第18話 【背徳の愛 ~ 正臣Side 3 ~】

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―――12月6日。 検査が始まる前に病棟に寄ると、俺は机に向かう彼女の背中を見つけた。 ナース達はそれぞれ朝の患者ケアに回っているようで、ステーションには点滴の準備をしているナース一人と、彼女と俺の三人だけ。 しかも、人に仕事を押し付けてはいつもステーションに入り浸っている、目障りな藤森の姿も無いようだ。 辺りを見回した視線を戻すと、彼女が向かい合う窓の向こう側には、雲一つない澄んだ青空が広がっているのが見えた。 朝の清々しい光が、ブラインドの隙間から差し込み彼女を照らす。 天気は良いし。今日は朝から運が良い。 背中で揺れる綺麗な黒髪を見つめ、俺は温かな笑みを浮かべた。 「おはよう」 彼女に近づいた俺は、事も無げに横に座って電子カルテにパスワードを打ち込む。 それと同時に、俺の横顔に彼女からの視線が伝わってきた。 「…おはようございます」 ほんの少し間を空けて、彼女は遠慮がちな声を零した。 俺は彼女の表情が気になって、キーボードに乗せた指の動きを止めてその横顔を見る。 「今日のステーションはやけに静かだね」 「今日はシーツ交換日なので。シーツ交換と保清処置にみんな回ってるんです」 「へ~、そうなんだ。で、安藤さんはこれ何してるの?」 「…保険会社に提出する診断書です。今日、退院される患者さんの」 俺に一度も目を向けずに、電子カルテだけを見て淡々と言葉を置いて行く彼女。 ―――あの日以来、 誕生日の翌日に屋上で会話をして以来、俺は彼女に避けられている。 いや、避けられていると言うよりもむしろ… 「へ~、診断書ね。で、会話してるのに安藤さんはどうして僕の顔を見ないの?」 「えっ!?どうしてって…べ、別に何の意味もありませんけどっ」 彼女は一瞬だけ俺を見て、逃げるように慌ててその目を逸らした。 そう、避けられていると言うよりも―――むしろ彼女は、俺を過剰に意識している。
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