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それは、単なる俺の自惚れなのか?
「じゃあ、ちゃんとこっち見て話してよ」
「なっ、何言ってるんですかっ!」
彼女は声を裏返し、顔を真っ赤にして狼狽える。
「…声、大きいとあっちに居るナースに聞こえちゃうよ?」
「………」
やはり、俺の自惚れなどでは無い。戸惑いの中で見せる彼女の表情が、そう教えてくれる。
耳まで赤く染めて…
彼女の素直な反応が、俺を欲情させる。もっと俺の存在を植え付けて、もっと困惑させてやりたくなる。
「手が止まってるよ。急ぐんでしょ?その書類」
「ぬわっ。そうですとも!急いでますとも!…ったく、誰のせいだと思って…」
「…ん?誰のせい?」
「いいえ、何でも無いですっ!」
彼女はそう言い捨てて、プイッと俺から視線を外した。
何て可愛い顔すんだよ……。おいっ、無意識に俺の顔まで緩むだろっ。
俺は彼女の横顔から電子カルテに目を移すと、喉の奥から込み上げてくる笑いを必死に堪えた。
「あ~っ、丁度いい所にいたいた。高瀬先生と安藤さんっ」
背後から聞こえてきたハイテンションな声。
名を呼ばれた俺と彼女はキーボードを打ち鳴らす手を止めて、目を見開いて同時に後ろを振り返った。
「遅くなってごめんね~。これ、来週13日の招待状」
俺達に声を掛けながら近づいてくるのは葵ちゃん。夜勤明けで帰宅するところなのだろう。肩には大きな手提げかばんが掛けられている。
「来週13日?……何だっけ」
俺は目の前に差し出された一枚の紙を受け取り、それに目を落とす。
「やだな~。病棟の忘年会だって言ったじゃない。今回は安藤さんも参加してくれるのよ。ねっ、安藤さんっ」
俺と同じく招待状を渡され目をパチクリさせる彼女を見て、葵ちゃんは満面の笑みを浮かべ嬉しそうに声を弾ませた。
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