第18話 【背徳の愛 ~ 正臣Side 3 ~】

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――――自宅近くのコンビニで初めて彼女を見かけたのは、二か月ほど前の事だ。 安藤麻弥…… 何故こんな所に彼女が!? 正規職員として病院勤めをする彼女が、何故週末の夜間にコンビニでバイトなんてしているんだ!? レジで他の客の商品を袋詰めしている彼女を見つけた時は、手に取ったビールを片手に静止して、俺は我が目を疑った。 病棟で見せるクラークとしての顔。 昼休みに子供達に見せる顔。 そのギャップだけでも驚かされていると言うのに…… この上にまだ俺に興味を引かせようとするのかっ、安藤麻弥! 自宅付近で見かけたとすれば当然、彼女に対する興味も今まで以上に湧くもので。 高揚感が好奇心に拍車をかけて、院内で倫理的タブーと言われる行動にも出てしまう。 茶屋ヶ坂!?……隣り町じゃないか。 なんだ、こんな近くに住んでいたのか……だからあのコンビニに。 人目を忍んで電子カルテを覗き込む俺は、彼女のカルテの住所欄に目を置いて人知れず笑みを浮かべた。 紙カルテの時代ではそうは行かないが、電子カルテになった現在は名前を入力するだけで、院内に受診履歴を持つ者全てのカルテが覗き見できる。 誕生日は11月24日…… 電子カルテから視線を滑らせ、カウンターに置いてある卓上カレンダーに手を伸ばす。 「日曜日……」……もし付き合ってる男がいるなら、当然デートの予定が入ってるだろうな…。 住所を知ったところで、誕生日を知ったところで、どうする事も出来なければどうにかなる訳でも無い。 衝動に駆られて女性のカルテを覗くなんて、俺らしくない行動に今更ながら嫌悪感が湧き起こる。 胸の奥に燻るのは、得体の知れないじれったさ。 ふと目を上げると、ガラス一枚隔てた廊下の奥に彼女の歩く姿が見える。 相変わらず、正面向いて背筋を伸ばして凛として… 「……付き合ってる男はいるのか?」 音にならない小さな呟きが、無意識にポロリと落ちた。 何なんだ? この胸のざわめきは.... 口を引き結んで彼女から視線を逸らし、諦めるようにパソコンに映し出されている彼女のカルテを閉じた。
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