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――――昨夜もあのコンビニで彼女を見かけた。
どうやら彼女は、土日の夜間帯だけバイトをしているようだ。
平日は病院で働き、週末の夜はコンビニでバイトをし、そんな生活をしていて一体いつ男と会う時間を作れるんだ?
現在、男はいないのだろうか……。
…いや、その思考はあまりにも単純過ぎる。
頭が良く、女性らしい器量も持ち合わせ、守ってやりたくなる程に小柄で可愛いらしい彼女だ。
この俺がこんなにも惹かれてしまうと言うのに、世の男が彼女を放っておくはずが無い。
結婚適齢期の彼女…
結婚前提の相手が居るか、もしかしたら同棲しているパターンもあり得る。
結婚前提の相手……同棲……
あの彼女が特定の男のものになる―――
煩わしい周囲など気にも留めず、仕事に打ち込む凛として美しい横顔も、子供たちに見せる優しい光に満ちたあの笑顔も。
春の暖かな風に包まれて眠るあの寝顔も、柔らかそうな唇も肌も……
いつかは、彼女の全てがどこかの男のものになる。
どんなに触れたくても、俺にはそれが許されないと言うのに……。
俺は既婚者。
純真なものに触れてはならない。汚してはならない。…それは当然の事。
頭では分かっている。
分かっているのに、それを自分に言い聞かせる度に得体の知れない苛立ちが込み上げる。
彼女の存在が俺の精神を乱す。
遠くから見つめているだけでは、職場で言葉を交わすだけでは物足りない。
もっと彼女を近くに感じたい。
どうしたらいい?
どうしたら、彼女の視界に俺の姿を映り込ませる事が出来るんだ?
………
………「……いてる?」
「……」
「ちょっと正臣!私の話聞いてるのっ!」
書物にただ目を置いているだけの俺の耳に、キンとした声が入り込んだ。
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