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意識を現実に戻した俺は、書物から目を離して顔を上げる。
すると、ソファーに座る俺の目の前で姉の杏奈が仁王立ちして俺を見下ろしていた。
「聞いてなかった。何だ?」
「聞いてなかったじゃない!牛乳が切れてるって言ってんの。明日の朝、咲菜に飲ませる牛乳がないから今から買って来てよ」
「…俺が?」
「あったりまえじゃない。こんな夜に、この私に買い物に行けと言うのっ!」
杏奈は仁王立ちの姿勢のまま右手で俺を指さし、フンっと鼻を鳴らした。
昼間、咲菜と買い物に行ったのはお前じゃないか…何故その時に買わなかったんだ?
と、突っ込みの一つもしてやりたいところだが、それをコイツに言ったら更にめんどくさい事になるのは目に見えている。
「ああ、分かった。牛乳だけで良いのか?」
従順な言葉を置いて、読みかけの雑誌は伏せ、俺は掛け時計に視線を飛ばしながら腰を上げる。
目を向けた時計の針は21時を示している。
11月24日……今日は彼女の誕生日だ。
彼女は今夜もレジの前に立っているのだろうか。それとも、休暇をとって今夜は……。
時計から目を外し、やり場の無いため息を落とした。
「あ、あと食パンも買って来て。何処まで買い物行くの?スーパー?」
杏奈は首を傾げて俺を見る。
「…そこのコンビニまで」
俺はそう言い残すと、椅子に掛けていたえんじ色のダウンジャケットをはおり
部屋を出た。
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