1672人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
コンビニの駐車場に車を止めて、店内の様子を窺いながら自動扉に近づく。
扉が開かれる瞬間、彼女と視線が合うことを期待して心拍数が上がる。
俺は息を吸って、彼女の姿を求め視線を伸ばした。
すると、彼女が居るはずのレジの前に店員の姿は無く。見えたのは、レジの正面にある棚の前で身を屈め、品物を陳列する大柄な男性店員だけだった。
やはり、今夜は休暇をとっているのか……。
誕生日の夜だからな…コンビニのバイトなんてしてるはずが無い。
ただ落胆し、自嘲的な笑みを浮かべる。
「いらっしゃいませ!」
自動扉が開いたと同時に、俺を見た男性店員が威勢のいい接客の声を飛ばして来た。
この店員…いつも彼女と一緒にシフトに入ってる男だ。
店内に入った時は毎回、彼女の前に立つのを躊躇いこの店員のレジに並んでいた。
声には張りがあり商品の扱いも丁寧で、なかなか好感を持てる接客をする男だ。
今夜はこの店員しか居ないのか…
心の内にため息をつき、雑誌の棚の方へと足先を向けたその直後。
レジの奥にある部屋から人影が現れ、俺は慌てて目の前にある雑誌を手に取った。
「深津さん、この伝票の処理ってどうしたら良いですか?」
「ああ、俺が後でやるからそのまま置いといて」
「は~い。では宜しくです」
透き通った柔らかな声が聴覚を伝い、俺の胸の奥を擽った。
居たっ。今夜も出勤してたんだっ!
ここに居ることがフリーと言う理由に繋がる訳でも無いのに、今、この時に彼女が誰かの側に居ないことに安堵を得る。
急激に加速していく鼓動。
彼女の気配に神経を集中させ、雑誌を読むふりをして聞き耳を立てる。
最初のコメントを投稿しよう!