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「たっ…高瀬先生?」
彼女は明らかに驚いた顔をして、大きな瞳で俺を見つめた。
ここは職場じゃない。
プライベートで真正面から見る彼女は、あまりにも可愛くて。
「……こんばんは」
咄嗟に視線を彼女のネームプレートに置いて、照れ隠しに低い声を漏らした。
沈黙が流れ、緊張感が更に高まる。
「君、同じ病院の事務員だよね?」
わざとらしい言葉が俺の口から滑り落ちた。
「ハイ…同じ病院の事務員です」
間を空けて、彼女は気まずそうに俯いた。
――――何だ?この微妙な空気は。
彼女は口を閉ざしたままひたすら商品をバーコードで読み取って、それをカウンターの上に置いて行く。
俺にアルバイトをしている姿を見られたのが、そんな顔をするほど嫌なのか?
俯き加減の彼女の顔をじっと見て、眉根を寄せる。
このまま帰る訳には行かない。
今夜は彼女に会うために来たんだ。
「……バイト?」
沈黙に耐えかねた俺から声を掛けた。
「ハイ…見ての通りに」
素っ気なく彼女が言う。
「……何で?」
「えっ?何でって…」
やっと顔を向けてくれた彼女は『バイトしてて何か文句でもある?』と言うような目で、俺を見た。
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