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賢者の家
「ふむ」
私は感嘆した。
「普通に喰えるではないか」
「まったく失礼だな。シチューぐらい作れるよ」
クイズが頬を膨らます。いや、「ビーフガノン○ロフ」などと言い間違える人間に言われても、説得力がないのだが。
それにしても、この年頃の少女が一人暮らしというのは気にかかるな。他人のプライベートになど興味はないので、わざわざ聞いては見ぬが。
「――でも、まさか人類を滅亡させようとしてた魔王がクリームシチューが好きなんて意外。人間の生き血とか言われたらどうしようかと思ってたんだけど」
「人類の滅亡!? ちょっと待て、私はそんなことは望んでいないぞ!」
「えっ、ご先祖様の文献にはそう書いてあったんだけど」
ワイズめ、いい加減な歴史を残しおって。さては私を封印した自分の株を上げようという魂胆か。道理で子孫のクイズが異常に有名人なわけだ。他にもいろいろと捏造しているに違いない。
「魔族は人間と違い、強大な魔力を持つ代わり周囲の精気を打ち消してしまうため農耕などに向かぬ種族。人間がいなくなったら魔族も滅亡してしまうではないか! そんな愚かなことをする者がいないことぐらい、気付け!」
「じゃあさ、なんで魔王なんてやってたの?」
「……世界征服が格好いいと思ったから、ただそれだけだ」
私が素直に答えると、クイズはあからさまに驚いた。
「それだけっ!?」
「では、貴様は何故賢者になった?」
「えっ、それは……賢者の一族だったから賢者になるものだと思ってたし、マナの扱いもうまかったから自分に向いてると思ったし――やっぱり父さんやご先祖様が格好よかったのもあるけど」
「フハハ、同じだな」
私と同じだということが嫌なのか、クイズはむくれた。
「魔族の貴族に生まれ、幼い頃から類い稀なる力を持っていた私は、周りから支配者となるよう期待されて育ってきた。魔族にとって世界征服は憧れの的だし、自分にはそれができるだけの力があると信じていたからな」
あと一歩というところで勇者に邪魔さえされなかったらの話だったがな。
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