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終章
「……! お主は――何をしに来た!」
老人――大賢者ワイズは恐怖を含んだ目で私を睨みつけた。
「案ずるな。私にはもう戦えるだけの力は残されていない」
すでに平衡感覚を失い、倒れそうになる体を必死で支える。私は狭まった視野で、必死に大賢者の姿をとらえた。
「今はただ、しばらく眠りたい。次なる強敵が現れるまで」
激しい立ちくらみが私を襲う。もう立っていることすらかなわず、床に膝をついた。魔王と恐れられた私が、無様なものだ。
「その眼に偽りはないようだな。この屋敷の奥に、封印の井戸が隠してある。そこで眠るがよい」
「……感謝する」
大賢者が燭台の仕掛けを動かすと、本棚が左右に退き、その先に隠されていた部屋の中央に井戸が見えた。私は這うようにしてその井戸のそばまで進みでる。
「次なる強敵が現れるのは、いつ頃になるだろうか」
自分の声とは思えない、かすれた声。
「占星術と水晶玉占いの結果によると、今から百年ほどの後に再び魔王を名乗るものが現れる。しかし魔王は勇者ブレイドの末裔により葬り去られるだろう。その末裔ならあるいは、お主を満足させることが出来るやもしれん」
大賢者の姿がにじんで見えた。声がやけに遠い。
「そうか。では、その者が現れたならば、私の封印を解いてほしい。私に残された未練は――もう一度強い者と戦いたい、それだけだ」
最後の力を振り絞り、井戸の中に入ると、私は目を閉じた。奴に負けたばかりだというのに、不思議と心は安らいでいた。
「では、ゆっくりと眠るがよい――魔王ケイオスよ」
大賢者が封印の鍵を回す音を聞き、私は意識を手放した。
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