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「さては大賢者ワイズの子孫か。先祖の名をもじったな」
「さすが魔王。察しがいいね。と、言っても僕は養子だから血は繋がってないんだけど」
そんなことはどうでもいい。
「して、大賢者の子孫よ。なぜ私の眠りを覚ました」
「実はご先祖様の予言がはずれちゃってさ」
ふむ、ということは。
「――新たな魔王は現れなかったのか」
「いや、そこは当たってたんだけど、問題は」
大賢者の子孫はため息をついた。
「勇者の血筋が絶えちゃって」
「何っ!?」
予想外の答えだ。
「しかし、勇者は同じパーティの魔導士と恋仲ではなかったか?」
「その二人は順調だったんだけど、子孫が早死にしたり、結婚できなかったりしてね。ついこの間最後の一人が病死したってわけ」
魔王といえど、疫病、ましてや人のモテるモテないまで操ることは不可能。不幸な偶然だろう。
「して、そのことと私の眠りを覚ましたことにいかなる関係があるのだ?」
「ご先祖様の間違った予言のせいで、僕ら一族が責任を取らされちゃって、『絶対に魔王を倒せる勇者を連れてこい』って周りから言われちゃったわけ。でも、そこらの村人だったら、レベルを上げれば『あるいは』魔王を倒せるかもしれないけど、『絶対』って保証はないでしょ?」
……なんとなく話が読めてきた。
「『絶対魔王を倒せる』のは前魔王のケイオスってワケ」
「やっぱりか!」
「と、言うことで、協力してくれないかな?」
「――帰る」
満面の笑顔で私を見つめる大賢者の子孫を無視して、私は井戸の上へと続く梯子を上る。
「えっ、ちょっと待ってよ! だいたい帰るってどこに?」
「あ」
確かに私の城は、百年前勇者に負けた際に崩れ落ちた。宿屋に泊ろうにも有り金はちゃっかり勇者に持っていかれた。
「じゃあ、もう一度眠る。誰かが魔王を倒すまで起こすな」
「えい」
ぐしゃっ。大賢者の子孫は何かを踏み壊した。……封印の鍵だった。
「ごめん、うっかり壊しちゃった。エヘっ」
わざとだ。絶対わざとだ。
「しょうがないから、しばらく僕んちに泊ってきなよ」
「長期戦に持ち込む気か。さすが大賢者の子孫――策士」
「その『大賢者の子孫』ってのやめてよ。クイズでいい。長い付き合いになりそうだからさ!」
長い付き合いか。ならないことを祈る。
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