第1章

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「さては大賢者ワイズの子孫か。先祖の名をもじったな」 「さすが魔王。察しがいいね。と、言っても僕は養子だから血は繋がってないんだけど」  そんなことはどうでもいい。 「して、大賢者の子孫よ。なぜ私の眠りを覚ました」 「実はご先祖様の予言がはずれちゃってさ」  ふむ、ということは。 「――新たな魔王は現れなかったのか」 「いや、そこは当たってたんだけど、問題は」  大賢者の子孫はため息をついた。 「勇者の血筋が絶えちゃって」 「何っ!?」  予想外の答えだ。 「しかし、勇者は同じパーティの魔導士と恋仲ではなかったか?」 「その二人は順調だったんだけど、子孫が早死にしたり、結婚できなかったりしてね。ついこの間最後の一人が病死したってわけ」  魔王といえど、疫病、ましてや人のモテるモテないまで操ることは不可能。不幸な偶然だろう。 「して、そのことと私の眠りを覚ましたことにいかなる関係があるのだ?」 「ご先祖様の間違った予言のせいで、僕ら一族が責任を取らされちゃって、『絶対に魔王を倒せる勇者を連れてこい』って周りから言われちゃったわけ。でも、そこらの村人だったら、レベルを上げれば『あるいは』魔王を倒せるかもしれないけど、『絶対』って保証はないでしょ?」  ……なんとなく話が読めてきた。 「『絶対魔王を倒せる』のは前魔王のケイオスってワケ」 「やっぱりか!」 「と、言うことで、協力してくれないかな?」 「――帰る」  満面の笑顔で私を見つめる大賢者の子孫を無視して、私は井戸の上へと続く梯子を上る。 「えっ、ちょっと待ってよ! だいたい帰るってどこに?」 「あ」  確かに私の城は、百年前勇者に負けた際に崩れ落ちた。宿屋に泊ろうにも有り金はちゃっかり勇者に持っていかれた。 「じゃあ、もう一度眠る。誰かが魔王を倒すまで起こすな」 「えい」  ぐしゃっ。大賢者の子孫は何かを踏み壊した。……封印の鍵だった。 「ごめん、うっかり壊しちゃった。エヘっ」  わざとだ。絶対わざとだ。 「しょうがないから、しばらく僕んちに泊ってきなよ」 「長期戦に持ち込む気か。さすが大賢者の子孫――策士」 「その『大賢者の子孫』ってのやめてよ。クイズでいい。長い付き合いになりそうだからさ!」  長い付き合いか。ならないことを祈る。
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