第1章

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始まりの町 カントル  賑やかな街道を私たちは歩いていた。以前の癖でつい襲撃したくなるが、今の自分がそのようなことをしても、何の意味もないことを思い出す。かといって、しみじみと感慨にふけってもいられない。なぜならば。 「ねえねえ、ケイオスケイオス」  さっきからこのクイズとかいう小娘がうるさいからだ。 「全く、ケイオスケイオスと……馴れ馴れしいぞ! 私は前魔王だ」 「人間が魔王に敬語を使う義理はないし」 「歳も貴様より二百年は上だ」 「半分ぐらい寝てたでしょ」 「ぐっ」  本当に口先だけは一人前の賢者だ。 「ところでケイオス、今日のお夕飯は何が食べたい?」  歩きながらクイズが訊いた。 「夕食か。私は貴様ら人間とは根本的に体の造りが違う。何も食べずとも生活できるが」 「食べられないの?」 「いや、食べずとも生きられるというだけで、食べられないわけではない」 「じゃあ食べてよ。君が何も食べないのに僕だけご飯食べるのも気が引けるしさ。別に食べ物で釣れるなんて思ってないし」  また私は知らぬ間に、彼女のペースに巻き込まれている。不思議な娘だ。 「――そうだな。それならクリームシチューが」 「クリームシチュー!? 遠慮してない? こう見えても僕、料理は得意だからビーフガノン○ロフぐらい……」 「それは『ビーフストロガノフ』だ」  大先輩を料理しないでもらいたい。 「きゃああああっ!」   突然、通りの先から女性の悲鳴。周囲が騒然となる。 「フハハハハ苦しめ愚かな人間どもよ……違った。何の騒ぎだ?」 「ケイオス、魔王の癖が抜けてないよー」  貴様らの感覚では百年も昔のことだろうが、私としてはつい一晩前まで魔王だったのだ。そんなすぐに癖が抜けるはずなかろう。 「とにかく何があったのか見に行こう!」 「は? 人間の身に何が起ころうと私の知ったことでは」 「どっちみち牛乳屋さんこの先だから! シチューが食べたかったら来るの!」  クイズに腕を無理やりつかまれた。やれやれ、仕方がない……か。久々の食事も楽しみでないわけではないからな。
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