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「ママー、もう大丈夫みたいだよー」
奥の商店から、幼い娘の声が聞こえた。隠れていたのか。
「あら、本当に?」
「うん、あのおじさんが倒してくれたみたいー」
む、誰がおじさんだ。確かに人間としてはおじいさんといっていい年齢かもしれないが、そんなに老けてはいない。
「おい、アイツの横にいるのって、賢者見習いのクイズじゃないか?」
その向かい側の商店の店主と思しき男が顔を出した。
「クイズって、確か今朝、『絶対に魔王を倒せる勇者を連れてくる』って言ってたよな」
と、さらにその隣の店主。
「ってことは、アイツが」
『勇者?』
誰かが言いだすと同時に、人間どもが勇者様勇者様などと言いながら私のもとに集まってきた。いや、だから私は勇者ではないのだが。突然現れた私が勇者だと一発で信用するとは、クイズの人望が厚いのか、村人がお人良しなのか、それとも私が善人面――最後は魔王として致命的だ。考えないことにしよう。
しかし、悪い気はしない。
「フハハハひれ伏せ愚民ども」
「ソレなんか違うよ! ――あっ、武器屋のおじさん。すみません、さっきの戦いでひのきのぼう、炭にしちゃって」
「いや、いいんだよ。それより勇者様が丸腰じゃサマにならないだろう。この剣、持って行きな」
武器屋の店主が私に剣を手渡す。
金と赤で彩られた鞘と柄はシンプルだが機能的なデザイン。やや短めの刀身は白く輝く鋼でできている。
しかし、この剣、どこかで見覚えが……。
「これは、勇者ブレイドが使っていた剣ではないか!」
「おや、わかるのか。さすが勇者様だ! その通り、これは伝説の勇者ブレイド様が使っていたと言われる『祝福の剣』だ!」
「……他の武器はないのか」
さすがにかつて自分を斬った剣を持ちたくはない。
「おや? 気に入らなかったかい。まあ、前の勇者と同じ剣じゃァ何かにつけて比べられたりして苦労するかもしれないしなぁ。じゃ、他のにするか」
案外聞き分けのいい武器屋の店主に、私は勇者の剣を返そうとする。
と、手に突然激しい痺れが走る。私は思わず飛びのいた。
――剣を手放せない!?
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