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山村武士と立川早苗は、清水寺の舞台を離れ、人混みの中、歩き出した。
二人は寄り添い、手をつなぎ、まるでこれから先、永遠の幸せがあると信じきっているかのようにさえ、私には思えた。
〈 なぜ私ではなくて、立川早苗なの? 〉
私は、山村武士のとなりに立つ
あの女の存在が許せなかった。
〈 絶対に許さない!
あの人と結ばれるのは、私だから 〉
家庭の事情で普通の高校に通えず、定時制高校へ行った私。
私は小さな食品工場で働き、病弱な母を支えた。
仕事を始め、自立した生活が送れるようになり、ホッと一息ついた私が気づいたこと。
私の未来に用意されている駄作とも言える陳腐なシナリオ。
低賃金で働く夢のない職場。
職場にいる誰もが、夢を持たず、まるで時間を切り売りしているかのように生きている。
あの人たちは皆、静かな絶望の中で生きているのかしら?
夢を持たず、あきらめ、他人の幸せに目をそむけながら……。
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