【Side 秀秋:その恋は背任行為】

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  「困ってるの」  やけに深刻な顔で、愁子が俺に漏らしたのは、芹香に出会う前──春の終わり、ゴールデンウィークが終わってすぐの頃だった。  このお嬢様との付き合いは、やけに長い。  出会ったのは小学生のチアリーディングの集まりでだったからもう10年になる。  どうして俺がそんなところに出入りしていたかは、のちほど説明する。 「なにが」 「お世話になってる会社ね、人が足りないらしくて」 「……バイトだろ。お前が気にすることじゃないんじゃないの」 「そうだけど、義理とかそういうものを忘れちゃいけないと思うの」  根っから育ちのいいこの女は、近頃の無責任な風潮にたいそう心を痛めている。  ネットで拡散されて話題になった、コンビニの冷蔵庫に寝そべった男の写真など見て、画面相手に本気で怒り出し、しまいには「この人が誰かを突き止めて、お説教しに行く」などと言い出した。  純粋な正義感には頭が下がるが、それはそれで別の問題が発生するんだということを、手元の判例集をめくりながら説明しなければならなかった。 .
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