初恋はじめました

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 数種類のコードと主旋律を奏でながら、曲と歌詞を合わせていく。  数小節毎に口ずさんで、作品をリアルに再生する。  そんな繰り返しの中で、気に入ったサビの部分が出来上がった。  おれは、姿勢を正してから指先に想いを込めて。  周囲に澄み渡るようなピアノの音で、身体の芯まで響くようなバラードを奏でて。  本気の発声で歌を乗せた。  陶酔がおれを包んで、曲が示す情景に感情が揺さぶられる。  気持ちいい……。  共鳴する弦と歌い上げるおれの声が、肌と身体の奥に振動を与える快感。  それは、おれにとっては至福の瞬間だ。  これに比べたら、セックスの快感なんて、小さくて貧しい。  比べるべくもないだろう。
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