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「おー、流石若いねぇ。至って健康。異常なしだ」
「そうですか。死んでるのに至って健康って変な感じしますけど」
カルテを楽しそうに捲る博士を見る。永瀬 牡丹(ながせ ぼたん)が本名で、ゆるいウェーブがかかった腰まで伸びた癖毛が特徴の男。恐らく四十代。僕らを生き返らせた張本人で名付け親。
「薬の恩恵を存分に味わってるくせに、今更だねぇ。まぁ、開発者である僕もこの薬の効能を全部把握してる訳じゃないから、何か気付いた事があったら言うんだよ」
長い髪を指でくるくると遊びながら薬の入った透明な瓶を、僕の前にとんっと置く。黒い液体の入ったカプセル。僕らの命綱。
「分かってますよ。僕らは永瀬さんの被験体ですからね。永瀬さんの薬のおかけでこうして生きてる真似を出来る訳ですし、ちゃんと与えられた役目はしますよ。とりあえず、今の所身体能力の向上と再生する事以外は何もないですね」
「そうかい。ホント君達が協力してくれて助かるよ。勝手に生き返らせたから断られるかと思ってたけど。生者に投与したら寿命が延び、死者に投与したら復活する。我ながらよく分からない薬を作ったもんだよ。君達が望むなら、いつでも死体に戻してあげるよ?」
「ええ、その気になったら言いますよ」
「屍君はまだ、名前思い出せないの?」
頬杖を付きながら、笑顔で訊いてくる。見透かしたような不敵な瞳が、僕は案外好きだ。死体は嫌いと言うけど。
「そうですね。僕も死体も思い出せないままです」
「そうかい。屍君はさ、死体君を本当に愛してるのかい?死体君は本当にお兄ちゃん大好きってのが伝わってくるんだけど、屍君はどう思ってるのか伝わってこないんだよ」
椅子から立ち上がり、瓶を取り、ドアを開け、去り際。
「永瀬さん、僕は死体を愛してますよ。死体よりも狂気的に」
「……そうかい。しっかりと鎖を握ってないと駄目だよ?」
「分かってますよ」
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