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「本田さんたち、今帰り?」
「あ、はい」
もう薄暗くなった教室の片隅。
学校指定の鞄を担ぎ、そろそろ帰ろうかと立ち上がりかけた少女たちにこの学校の教師であろう中年程の女性が声をかけた。
本田、と呼ばれた少女、ナナミはこくりとうなずく。
「ちょっと頼みごとがあるんだけど……お願いしてもいい?」
「えー」
「お願い!」
「先生、帰んの遅くなるじゃん」
顔の前で年甲斐もなく小首を傾げ、手を合わせた教師にナナミは面倒くさそうな声を上げた。
その脇からユリナも非難の声を上げる。
ちらりと時計をみると電車に間に合うか間に合わないかぎりぎりの時間。
思ったよりも話し込んでしまったようで、出来ればそんなタイムロスをしたくないというのが本音であった。
「どうしても、なの。会議に間に合わないのよう!お願いよ、小鳥遊さん!」
「え、あ…の」
たかなし、と呼ばれた少女、カノンは困ったように眉尻を下げる。
先生の、行ってくれるでしょ?とばかりの重圧がすごい。
息苦しいほどに。
その重圧に耐えかねたのか、少し視線をさ迷わせた後に、歌音は頭を縦にふってしまったのである。
はあ、と後ろからは七海と百合菜の深いため息が聞こえた。
これで3人は今確実にひとつ電車を逃してしまったことになったのであった。
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