甘香、幻影を払う

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 ……いい加減、腹をくくって、越えねぇとな。  分かっている。  この幻影を振り払わなければ前へ進めないということも。  百合との間を埋められないということも。  そんな蓮の葛藤に、百合が気付いているということも。  百合のつま先が、地面をえぐる。  それを見た瞬間、蓮は両手のナイフを手放した。 「っ……!!」  勝負は、一瞬でついた。 「……俺の勝ちだ。  納得したか?」  半身にさばいた蓮の心臓に百合の短刀の先が届くよりも早く、蓮のナイフが百合の首筋に埋まっていた。  だがその刃先は、決して百合を傷つけていない。 「……そろそろ、ケリ、つけなきゃいけないと思って、俺なりに考えてたんだ」  蓮が最後の頼みとしてパーカーの袖に仕込んでいたナイフは、形そのものは蓮が常用しているナイフと同じだが、刃は潰され、用をなさなくなっていた。 「痛くないか?  ……って、痛い、よな?  いくら切れなくしてあるって言っても」  驚きに瞳を丸くしたまま固まっている百合からナイフを引き、百合の首筋を確かめる。  加減することなく突き出されたナイフのせいで、百合の首筋には一筋のあざができていた。  蓮はそれを確かめると、百合の膝と背中に腕を当てて問答無用で抱き上げた。
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