3人が本棚に入れています
本棚に追加
……いい加減、腹をくくって、越えねぇとな。
分かっている。
この幻影を振り払わなければ前へ進めないということも。
百合との間を埋められないということも。
そんな蓮の葛藤に、百合が気付いているということも。
百合のつま先が、地面をえぐる。
それを見た瞬間、蓮は両手のナイフを手放した。
「っ……!!」
勝負は、一瞬でついた。
「……俺の勝ちだ。
納得したか?」
半身にさばいた蓮の心臓に百合の短刀の先が届くよりも早く、蓮のナイフが百合の首筋に埋まっていた。
だがその刃先は、決して百合を傷つけていない。
「……そろそろ、ケリ、つけなきゃいけないと思って、俺なりに考えてたんだ」
蓮が最後の頼みとしてパーカーの袖に仕込んでいたナイフは、形そのものは蓮が常用しているナイフと同じだが、刃は潰され、用をなさなくなっていた。
「痛くないか?
……って、痛い、よな?
いくら切れなくしてあるって言っても」
驚きに瞳を丸くしたまま固まっている百合からナイフを引き、百合の首筋を確かめる。
加減することなく突き出されたナイフのせいで、百合の首筋には一筋のあざができていた。
蓮はそれを確かめると、百合の膝と背中に腕を当てて問答無用で抱き上げた。
最初のコメントを投稿しよう!