甘香、幻影を払う

11/12
前へ
/12ページ
次へ
「……ごめんなさい」  大人しく医務室に連行された百合は、蓮の手で治療されながら小さく呟いた。 「嫌な思い、させて……ごめんなさい」  無表情のまま、しょん、と雰囲気だけでしょげる百合の頭をポンポンと撫で、蓮は小さく苦笑した。 「百合が、俺のためを思ってやってくれたってことは、分かってっから」 「でも、蓮、ちゃんと考えてたのに」 「百合には伝えてなかったからな」  蓮の言葉に、百合はそっと顔を上げた。  そのまま立ち上がり、向かい合わせに座っていた蓮の膝の上に腰を下ろす。 「蓮、ギュッて、してみて」  蓮の首に腕をからめて抱きつく百合を、蓮は条件反射で抱きしめる。  体温の低い百合の体はひんやりとしていて、でも確かな鼓動が小さな体から伝わってきた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加