甘香、幻影を払う

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「……大丈夫、だよ。  私はここに、生きている」  その言葉に、蓮ははっと目を見開いた。 「もう、終わったんだよ。  私はここに、幸せに生きている」 「……百合」  華奢な体を抱く腕に、力がこもったのが分かった。  百合がこの細くて小さな体で幾千もの地獄を渡り歩いてきたことを、知っている。  だからこそ、今、初めて与えられた平穏を、幸せに生きてほしいと、切に願っている。  願っているからこそ、あの幻影が、蓮を捕えようと迫ってくる。 「もう、終わったの」  今の百合は幸せなのだろうかと思うたびに、ふと現れる、過去の幻影。  その幻影を払う声が、静かに蓮にしみわたる。 「蓮、ずっと、一緒」 「……あぁ」  血のにおいも熱波も消えて、穏やかな熱と甘い香りが意識を満たす。  これが『幸せ』というものなのかと。  蓮は柄にもないことを考えていた。
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