甘香、幻影を払う

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 かつて、1つのゲームがあった。 『Battle Piece』  人を駒に、勝敗を金に。  チェスを模して行われる盤上遊戯。  莫大な掛け金と、人の命さえ握り潰す権力を持つ者のみにプレイすることを許された、非合法遊戯。 「強い人間が、全員遊戯参加者(バトラー)だったわけじゃないの。  だから、気を抜いちゃ、駄目」  かつて『Battle Piece』を支配していたオーナー家・八代の最高傑作品(マスターピース)と呼ばれ、幾重にも重なった死体の上に立っていた少女は、己の弟子に淡々と語る。 「だから、蓮も本気になってもらえるように、私なりに考えた」 「……それが、『蓮が負けたら、蓮に会わない?」  二人のやり取りを離れたところで聞いていた采上稔(さいじょう・みのる)は、面白がっているような口調で言葉を挟んだ。 「うん、そう」 「確かに、蓮に一番こたえるのはそれだよね。  さすが百合ちゃん、よく分かってる」 「……おい、外野は黙ってろ」  主であり、十年来の相方でもある稔の言葉をバッサリ切り捨て、蓮は困った顔で百合を見た。  そこに『冷酷無慈悲の代名詞』とまで呼ばれた采上の駒(ピース)『漆黒の騎士(ダーク・ナイト)』を務めた威厳はどこにもない。
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